一般的なサスペンションの話

2001.12.06
 S15は、サスペンション周辺の構造はターボ車とNA車でほぼ共通であり、NA車でも沢山の社外パーツを利用することができます。ここでは、特にターボ車とNA車の区別は行わず、差異がある場合のみそれを指摘することにします。


● サスペンション形式

 クルマのサスペンションはタイヤとボディとを結びつける部分で、タイヤから入力された鉛直方向の衝撃を吸収してボディに直接伝達しないという機能を受け持っています。

 サスペンションの形式には色々ありますが、有名どころとしては「ストラット式」「マルチリンク式」「ダブルウィッシュボーン式」「セミトレーリングアーム式」「車軸式(リジッドアクスル)」などがあります。S15では、フロントにストラット式を、リアにマルチリンク式を採用しています。ちなみに、GTRはフロント・リアともマルチリンク式、FDはフロント・リアともダブルウィッシュボーン式です。

 S15のフロントサスペンションに採用されている「ストラット式」とは、ロアアーム、テンションロッドとストラットからなる非常にシンプルなサスペンション形式です。アライメント精度が高く、構造が単純で安価であり、また水平断の面積が小さいためエンジンルームを広く取れるといった利点があるため、ほとんどのFF車と多くのFR車のフロントサスペンションに使用されています。

 ストラット式の場合、鉛直方向の入力(路面からの入力)は全てストラットが引き受けます。この時、ストラットにはストラットに平行な入力だけでなく、横方向のモーメントがかかります。ストラットはダンパーも兼ねているため、横方向の力はピストンロッドを湾曲させる方向に働き、ロッドとロッドガイドの間にフリクションを発生させます。これを防ぐため、S15純正のフロントストラットには、オフセットコイル(ピストンロッドとコイルの中心をずらして配置する方式)が採用されています。また社外品の車高調節式ダンパーは、倒立式(シリンダーをストラット上部に配置する方式)を採用するものが増え、剛性を高める工夫がなされています。その他、ステアリング操作時にはストラット全体が回転するため、ストラット式はハンドリングが重くなる傾向にあります。そこで、社外品のダンパーキットには、アッパーマウント部分にフリクションの少ないピロボール式を採用しているものが多く見受けられます。

 ストラット式でアライメント調整を行う場合、キャンバー角をホイールキャリア周辺で調整することはできません。ストラットのアッパーマウントに調節機構を設ける必要があります。S15の場合、純正ではこの機能を備えていませんので、フロントキャンバーを任意に変更したければ社外のアッパーマウントを導入する必要があります(註)。これは、車高調節式ダンパーキット(車高調)に標準装備されていることが多く、別個に購入する必要はあまりありません。また、調整式アッパーマウントを折角購入しても、純正形状のフロントサスペンションには利用できないことが多いようです。トーについては、純正でもタイロッドによる調節が可能です。キャスターについては、純正では調節できませんが、社外品の調節式テンションロッド(ターンバックル式が多い)を装着することにより調節可能となります。

 リアサスペンションに採用されている「マルチリンク式」は、基本的にダブルウィッシュボーン式の亜種と考えてよいと思います。日産のリアマルチリンクは、下部にAアームを持ち、上部にIアームを2本、後部(中間部)にトーコントロールロッドを配した構造で、ダブルウィッシュボーン式と同様、ダンパーのフリクションが少なく、またセッティングの自由度が高いという特徴を持ちます。

 アライメント調整は、HICAS非装着車であればトーコントロールロッドでトーを、リアアッパーアームでキャンバーを調節することができます。いずれも純正の偏心カムである程度の調整は可能ですが、広い調節幅を得るためには社外品のアームを導入する必要があります。

註)N1の競技用車は調整式アッパーマウントの使用が認められていないため、ストラット周辺を板金加工してキャンバー調整を行う様です。


● シルビアのサスペンションに於ける問題点と解決方法

 S15のフロントサスペンションで最も問題にされるのは、テンションロッドだと思います。これはフロントのホイールキャリアを前方に引っ張っているアームですが、純正ではブラケットとの連結部にあるブッシュが非常に柔らかく、制動時にブッシュが大きく変形して不安定な挙動の原因となります。このブッシュを強化品やピロボール(註)等に変更することで、そういった問題を解決します。ただ、ピロボールなど剛性の高いジョイントを使用する場合、純正に比べブラケット側への負担が大きくなり、ブラケット部が破損する場合もあります。このため、ハードな走行を行う場合は、テンションロッドブラケットも強化品に交換した方が良いかも知れません。制動時のアライメント変化を抑制するためには、さらに左右のブラケットを連結するバーを追加する方法があります。

註)ピロボールジョイントとは、金属球とその表面をぴったりと覆う金属の受け皿からなる関節構造を指します。球面と受け皿が面で接触するため、動作が滑らかでフリクションが少なく、本来の動作方向以外にほとんど動かないという理想的な関節動作を実現できます。しかし金属同士の接触面であるため、大きな入力や長期の使用により摩耗し、動作にがたが生じてしまいます。また、関節部分で衝撃の吸収が行われないため、関節以外の部分に大きな応力が生じ、サスペンションを構成するパーツの寿命を縮めてしまう場合もあります。こういったデメリットを嫌い、ピロ化より強化ブッシュ化を好むユーザも多いようですね。


 S15のリアサスペンションで問題になるのは、まずSUPER HICASでしょうか。これはspecRのMT車のみの設定なのでNA車乗りには関係ありませんが… 状況に合わせて後輪のトーを能動的にコントロールするHICASシステムは好みの分かれるところで、多くのユーザはHICASキャンセルロッドをなどを使用してこの機能を無効にしているようです。HICASを装備しないS15の場合(全てのS15NA)は、トーコントロールロッドを調節式に変更することでトーを自由に設定することができます。尚、リアのトーはトラクションに重大な影響を与えるため、社外品にはトーコントロールロッドのことを「トラクションロッド」と命名しているものもあります。

 日産のリアマルチリンク式でアライメント調整を行う場合、純正でも偏心カムによる調節機構が用意されています。しかし純正ではキャンバー角の調整幅が狭く、ある程度以上の自由度が必要であれば社外品のリアアッパーアームを導入する必要があります。


 尚、車高を大きく下げると、ロアアームの向きがハの字から逆ハの字になってしまい、ロールセンターが大きく狂ってしまいます。この状態ではアームの可動域が制限されて本来の機能が発揮できないため、アームの接合部をオフセットするためのパーツ(ロールセンターアジャスター)が各社から市販されています。


 また、リンクのブッシュが比較的柔らかく、荷重の変化によって容易にアライメントの変化を生じてしまうのも問題のひとつです。このような変化を防ぐ最も確実な方法は、全てのジョイントをピロボールに変更することですが、ブッシュの交換にはかなりの費用が必要となり、また運用面でも頻繁なメンテナンスが必要になるなど日常レベルの使い勝手が落ちるという問題があります。このため、ピロボールより強化ブッシュを使用するユーザも多く、NISMOからも強化ブッシュ圧入済みのアーム類が販売されています。


 ところで、マルチリンクのサスペンションメンバをボディに接合しているブッシュにも比較的柔らかいものが使用されており、リアのサスペンション全体の動作を不確かにする原因になっています。この部分を強化するには単純にブッシュを強化品に変更すればいいのですが、メンバ全体を取り外し、圧入されたブッシュを交換するにはかなりの手間と工賃が必要になります。このため、ブッシュの側面に樹脂製や金属製のカラーを挟み込んでジョイントの動作を抑制し、結果としてメンバブッシュを強化したのと同等の効果をもたらす部品(リジッドメンバ)が多数市販されています。

 リジッドメンバにはウレタンなどの樹脂製と、アルミなどの金属製があります。ウレタン製はアルミ製に比べて異音が少なく挙動も穏やかなので、ストリート中心の人はウレタン製を選択したほうが良いかも知れません。アルミはウレタン製に比べてよりメンバの動作を抑制できますが、S15の場合はリアの動作がピーキーになり、逆に乗りにくくなったという話も耳にします。もちろん、どちらが良いとは一概に言えませんが。

 ところで、これらのカラーには、製品の構造的上「割なし」と「割あり」が設定されています。「割なし」とはカラーが純粋にドーナツ型の構造をしたもの、「割りあり」とはカラーに切り欠きがあり、C型をしたものです。「割なし」は強度が高い反面、取り付けにはメンバの脱着が必要です。一方、「割あり」はブッシュに少し隙間を空けるだけで取り付けが可能ですが、剛性には多少難があります。工賃と効果のどちらをより優先するかですが、DIYなら「割あり」の方が楽でいいと思います。


 車高調については、また別の機会に書くことにします。

このページに関するお問い合わせは、karino@drycarbon.comまで。
このページは、BeOS R5 & KEditによって作成されています。
このサイトはリンクフリーです。自由にリンクしてくださって構いません。
Back