クロスミッションに関する考察
2001.10.18
市販車のマニュアルトランスミッションには、発進時(低回転で大トルクが必要)や高速道路走行(低トルクで高回転が必要)といった様々な状態に対応するため、非常に広い範囲をカバーするギア比に設定されています。これは一般道を走行する車両にとって当然のことですが、スポーツ走行時には問題になることもあります。
エンジンには最も出力の高い(或いはトルクの大きな)回転数の範囲があります。これをパワーバンドと呼びます。スポーツ走行の場合、加速する際には可能なかぎりこの範囲を利用したいのですが、変速機のギア比設定によってはそれが不可能になります。
例えば、パワーバンドが5,000回転から6,000回転のエンジンを持つクルマを運転する場合を考えてみましょう。
運転者は、ストレートを2速全開で加速し、パワーバンドの上限である6,000回転に到達すると、3速にシフトアップします。シフトアップの際、2速と3速のギア比に応じてエンジン回転数は低下します。この低下の度合いが大きい場合(例えば4,000回転まで低下した場合)、3速で加速し始める時の回転数はパワーバンドの下限を割ってしまい、クルマの加速は非常に鈍くなってしまいます。回転数の低下は2速と3速のギア比の比(ステップ比)に比例し、一般車の場合はこれが非常に大きくなっているのです。
そこで、スポーツ走行をする車両には、しばしばクロスミッションが使用されます。
クロスミッションとは、上記のステップ比を下げてシフトアップ時の回転数低下を抑え、常にパワーバンドで加速することを実現するためのトランスミッションを指します。クロスミッションを導入することにより、エンジンパワーを効率的に利用することが出来るようになり、峠やサーキットではより速く走れるようになる可能性があります。
もちろん、サーキットによって適合するギア比の組み合わせが異なるため、クロス化したからといって必ずタイムアップするとは限りません。しかし多くの場合、非常に有効なパーツであると言ってよいと思います。
ここでは、S15SR20DE(NA)車について、クロスミッションの選択と導入方法について考察します。
S15NAの欠点として、非常にステップ比の大きな5速トランスミッションが挙げられます。
ターボ車の6速ミッションはクロスミッションではありませんが、最終減速比との兼ね合いもあって5速ミッションに比べ若干クロス化された状態になっています。本当は非力さをカバーするために高回転を多用するNA車の方が6速ミッションの恩恵に預かれるはずですが…
もしS15NAに6速ミッションを搭載する場合、非常に大きな出費を覚悟しなければなりません。これは、6速ミッションと5速ミッションで、適合するクラッチ・フライホイール・プロペラシャフトが異なるためです。
例えば、新品のターボ用6速を流用する場合、下記のような出費が必要になります。
・6速ミッションASSY 251,000-
・ターボ車用強化クラッチ&軽量フライホイール 92,000-
・ターボ車用プロペラシャフト 55,800-
・マウンティングキット 14,000-
・取り付け工賃 23,000-(ディーラー)
ということで、合計435,800円かかります。
上記の状態では、ミッションはクロスではなく純正6速です。そこでこれにNISMOの1~4速クロスを組み込むと、更に下記の費用が必要です。
・NISMO 6速T/M用ギアキット 190,000-
・ミッションオーバーホール工賃 61,000-(ディーラー 取り付け工賃込み)
つまり、1~4速のクロスミッションを組むためには、合計663,800円が必要だということになります。もちろんこれらは全て定価、ディーラーで組んだ場合の話ですが。
また、ターボ用の6速ではなく、NISMOの強化クロス6速ミッションを組み込む場合は、下記の様になります。
・NISMO 強化クロス6速ミッションASSY 320,000-
・ターボ車用強化クラッチ&軽量フライホイール 92,000-
・ターボ車用プロペラシャフト 55,800-
・マウンティングキット 14,000-
・取り付け工賃 23,000-(ディーラー)
こちらは、合計で504,800円ですね。6速の中古が安く手に入らない場合は、最初からNISMOのクロスを組んだほうが安くつくと思います。また、いずれの場合も、変速機の形式が変わるので、構造変更の届け出が必要になります。
さて、5速ミッションユーザとしては、上記のいずれかの方法を取れば6速クロスが手に入るわけですが、新品では高価すぎてとても手が出ないですね。6速ミッションそのものは中古市場で12万円くらい、クラッチ&フライホイールもそれなりの値段で出回っていますが、プロペラシャフトはほとんど手に入りません。NISMOのクロスと純正6速をクロス化する場合の差額は16万円にも及ぶので、ミッション単体で9万円以下のものがないとペイしない計算になります。しかし、程度の良い中古品が非常に低価格で手に入る確率は、かなり低いと考えるべきでしょうね。
それほど貧乏ではないにせよ、決してお金の余っていない僕としては、他の方法を考える必要がありました。
一番簡単な解決方法は、5速ミッションのままでクロス化することです。もしS15の5速ミッション用クロスキットが発売されていて、なおかつそれが安価であれば、わざわざ6速にするメリットは少ないですから。
しかし困ったことに、現時点でS15の5速ミッション用クロスキットは全く発売されていません。S15の5速ミッションは、型番こそS14までのものと同じですが、内部構造には若干の変更が見られます。従って、既存のクロスミッションがS15に適合するかどうか分からず、現時点ではS15に使用することの出来るクロスキットは確認されていないのです(註1)。もしユーザが既存のキットを購入してS15に組み込む場合、結果にはなんの保証もありません。下手をすれば、キット代(14万円以上)と工賃6万円をドブに捨てることになりかねないのです。もちろん、自分で組めば工賃は不要ですが…
では、もっと安全で安価な方法はないでしょうか。
僕は、現時点でS14K'sの5速ミッションを流用する方法を考えています。
・S14K's用5速ミッション(中古) 3~40,000-
・亀有エンジンワークス 3速クロスミッション 138,000-
・オーバーホール料金 61,000-
この方法だと、合計で24万円程度ですみます。構造変更も必要ありません。S14K's用5速は、S15用5速に比べて高級品(コーン数が多い)なので、ついでにミッションそのものの強化にもなりますね。S14K's用5速をS15に組み込んだ例は確認されていませんが、これはほぼ確実に付くだろうと思われます(註2)。また、ミッションをアッセンブリーごと購入するため、クロスキットをあらかじめ組み込んでおくことも出来ます。ミッションの乗せ換えそのものは比較的短時間で出来るため、この方法なら安全で迅速なクロス化が実現できそうです。
欠点は、シフトフィールが6速ミッションに及ばないことと、6速そのものがないこと。フィールは個性なので仕方ないですね。この辺りはシフトのカラーなどで改善するしかありません。6速があると高速道路での燃費は良くなりますが、まあこれは値段を考えれば納得できる範囲の欠点だと思います。
註1) 亀有エンジンワークス、OS技研及びNISMOに確認済み
註2) 亀有エンジンワークスに確認済み
さて、以上は費用の面からの考察でしたが、これからは効果の面から各種純正及びクロスミッションを比較検討してみようと思います。
現在S15NAで使用できるミッションには、一般に下記のものがあります。
・純正5速ミッション(S14K'sまたはS15NA)
・純正6速ミッション
・NISMO6速クロス
・亀有エンジンワークス 3速クロス
・OS技研 5速クロス
当然ながら、純正の5速及び6速ミッションは、クロスミッションに比べてステップ比が大きくなります。上記のミッションのギア比及びステップ比は、下記の通りです(Table & Fig. 1-2)。
Table. 1 ギア比
| 1速 | 2速 | 3速 | 4速 | 5速 | 6速 | 備考 |
純正5速 | 3.321 | 1.902 | 1.308 | 1.000 | 0.838 | - | |
純正6速 | 3.626 | 2.200 | 1.541 | 1.213 | 1.000 | 0.767 | |
NISMO 6速クロス | 2.907 | 1.988 | 1.537 | 1.217 | 1.000 | 0.862 | |
亀有3速クロス | 2.427 | 1.677 | 1.258 | 1.000 | 0.838 | - | 純正5速使用 |
OS技研5速クロス | 2.717 | 1.722 | 1.232 | 1.000 | 0.759 | - | Aタイプ |
Fig. 1
このグラフでは、より平坦なほうがクロスしていることを表します。上のグラフからは、同じ6速同士では純正6速よりNISMOの方がよりクロスし、同じ5速同士では純正5速<OS技研<亀有の順にクロスしていることが分かります。純正5速が非常に傾きの大きなラインで示されることも分かりますね。
Table. 2 ステップ比
| 1/2速 | 2/3速 | 3/4速 | 4/5速 |
S15純正5速 | 1.746 | 1.454 | 1.308 | 1.193 |
S15純正6速 | 1.648 | 1.428 | 1.270 | 1.213 |
NISMO 6速クロス | 1.462 | 1.293 | 1.263 | 1.217 |
亀有3速クロス | 1.447 | 1.333 | 1.258 | 1.193 |
OS技研5速クロス | 1.578 | 1.398 | 1.232 | 1.318 |
Fig. 2
ステップ比を見てみると、NISMOクロスと亀有3速クロスが非常に良く似ていることに気が付きます。また1から4速までの間では、OS技研のクロスミッションが純正6速と類似していることも分かります。これらのことから、もし5速ミッションでNISMO的なクロス化を求めるならば亀有3速を、純正6速的なクロス化を求めるならOS技研のものを選択すればよいということが分かります。ただ、OS技研の製品は全体に高価であること、せっかくクロス化するならNISMOのようにフラットな特性のクロスミッションに仕上げたいことから、亀有エンジンワークスの製品が妥当だと思われます。
ということで、将来うちのクルマをクロス化する際には、亀有3速&S14K's純正5速を使用しようと考えています。
このページに関するお問い合わせは、karino@drycarbon.comまで。
このページは、BeOS R5 & KEditによって作成されています。
このサイトはリンクフリーです。自由にリンクしてくださって構いません。
Back