アナログとデジタル

1997.5.30


 はじめてMacを手に入れた頃、一番使っていたソフトはワープロでした。いや、私はMacをワープロ機として購入したといってもいいでしょう。マシンと同時に購入したATOK8とマシンに付いてきたクラリスワークスを使って、毎日毎日文書ばかり作ったものです。

 文書の内容は、レポートの他、マニュアル、会計書類、タイムテーブル、貼り紙、手紙などなど。とにかく書類を山ほど作りました。プリントアウトした書類は何枚くらいかな… 最低でも2,000枚は越えてますね。全て自分で作ったファイルだ、というのが今から考えると怖いですが。とにかくこの頃は、Macをいじることがそのままワープロを打つことだったと言ってもいいと思います。

 ところが最近、私はほとんどワープロを使うことがなくなってしまいました。週に1〜2枚程度、提出用の文書を作成するときくらいしかワープロを起動しなくなってしまったのです。

 理由はいくつか考えられますが、一番大事な理由は「データを印刷しなくなった」ということでしょう。以前作っていた文書は、印刷を前提としたものばかりでした。ワープロ書類や楽譜、手紙などは、全て印刷して使うものですよね。しかし最近作成している文書は、HTMLファイルやGIF画像ファイル、スクリプトファイル、電子メール書類など、Mac上で使うことを目的としたものがほとんどです。データの主流がアナログからデジタルに移行した、と言い換えてもいいかもしれません。

 デジタル処理用のデータが主流になったのは、他人とのデータ共有が必要になったからだと考えられます。特にネットワーク上では、互換性の低い印刷用のデータより、他のプラットフォームでも利用可能なテキストや共通フォーマットの画像ファイルの方が格段に便利です。中でもHTML形式のテキストデータは汎用性に優れており、一般のワープロ書類には真似のできない一般性を持つにいたりました。(欠点は多々あるにしても…)

 また、紙メディアなどとして保存するよりデジタルデータとして保存した方が後々再利用しやすい、ということも関係しているでしょう。例えば自分で論文を書いた場合、公開するための印刷物としてだけでなくデジタルデータとして保存しておけば、後にその内容を引用したり参照したりすることがとても簡単になります。また、Webなどで収集したデータをテキストファイルのまま残しておけば、将来その内容が必要になったとき簡単に検索することができます。

 まあ、デジタルデータをアナログデータに変換するのは簡単だけど、その逆は難しい、ということもあると思いますけど。

 誤解してもらっては困るのですが、私はデジタルデータがアナログに比べて勝っていると言っているわけではありません。デジタルデータはアナログに比べ、記録媒体の頑丈さで格段に劣ります。書籍は床に落としても読めなくなることはほとんどありませんが、ハードディスクは床に落とせばそれまでです。もちろんMOなど携帯用の媒体はそれなりに丈夫ですが、それでも踵で踏みつければ壊れますよね。処理するのに電気はいるし、内容の閲覧には機械がいるし、とても手軽に扱えるとは言えないのが現状です。

 紙メディアとデジタルメディアは、最終的に上手く共存していくことになるのでしょう。手帳とNewtonのどちらが便利かという問は無意味です。使い道が違うのだから、単純に比較してもしかたないですよね。テレビが新聞を駆逐しなかったように、自動車が徒歩を絶滅させなかったように、デジタルメディアは紙メディアを消滅させはしないでしょう。

 これからデジタルデータが人間の生活をどう変えていくのか、いろいろ想像してみるのも楽しいものですね。


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