Input Method考 2

1998.02.19


 去年の3月に書いた「インプットメソッド考」では、直接文字入力によるIM「す」を紹介しました。結局「す」はMacOS8以降、使えなくなってしまったのが残念です…

 で、今回はその後のIMについて。

 前回の記事から今までに、MacOSに於けるIM環境は劇的に変化しました。まず、去年の最大のトピックだった「ATOK11」の発表。また、それと時を同じくして「EGBridge」のアップデート。そして「ことえり2」の登場。MacOSの日本語入力は、ここ1年でかなり進歩してきました。

 しかし私にとって、最近のIMは何だか妙に使いにくく感じます。「進歩してるはずなのに、そんなのおかしい」と思われるかも知れませんが、少なくとも私はそう思います。

 おそらく、その原因の一つは「文脈変換」と呼ばれる機能でしょう。

 「文脈変換」というのは、入力されたひらがな文字列の文脈を判断して、それにふさわしい変換を行うという機能です。

 例えば、同じ「あつい」という文字列を、

  「あついこうちゃ」→「熱い紅茶」
  「あついほん」  →「厚い本」
  「あついなつ」  →「暑い夏」

 という具合に変換できれば、いつでも「熱い」に変換されるよりはずっと便利ですよね。最近こういった機能を実装するIMが多いことから考えても、この機能が便利だと思うユーザが多いのでしょう。

 ただ、この文脈変換には、ちょっとした落とし穴があります。

 まず、「あつい」を「厚い」に変換したとします。これは複数の候補から選ぶことになるでしょう。で、次に「あついこうちゃ」を「熱い紅茶」、「あついなつ」を「暑い夏」に変換します。これは文脈変換できちんと変換されますよね。

 では、今度は「きょうはあつい」を変換してみましょう。

  「今日は厚い」

 おい、この「厚い」ってのはどこから来たんだって思いませんか? え、「文脈変換」の変換結果は保存されないんだから、その前の変換結果が適用されるのは当然だろうって? その通りなんですが、こういう文脈変換が多用された入力では、いったいどれが文脈変換によって変換されたもので、どれが第一候補から変換されたものかの区別がつきにくくなります。

 上の例では明らかに文脈変換されると分っている語彙の組み合わせだから簡単に分りますが、例えば「厚い肉」「暑い夜」はどうでしょう。(じつは文脈変換されます。) じゃあ「暑い一日」は? 「熱い男」はどうでしょう。(されません)

 しかも、ユーザ側は、この文脈変換用の語彙セットを、見ることも編集することも出来ません。これでは、変換結果が全てIM任せになってしまいます。

 「とにかく変換効率が良くなるんだから、それでいいじゃないか」と思われるかも知れませんが、変換効率が上がることと入力効率が上がることは同じではありません。特に文字入力を大量にこなすような人は、変換効率より入力効率の方を重視することになります。

 ところで、頻繁に文字を入力するユーザは、あるひらがな文字列に対する前回の変換結果を何となく覚えていますよね。

 例えば「熱い紅茶」と変換した後、ユーザは「あつい→熱い」を覚えています。従って、次に「あつい」を入力したとき、無意識のうちに「熱い」と変換されることを予測します。だからもし次の入力時に「熱い」と変換するつもりなら、その人は変換結果など見ずに変換文字列を確定してしまいます。

 ところが、ここでいきなり「厚い」が出てきてしまうと、ユーザはその文字列をもう一度入力しなおす手間が必要になったり、最悪の場合はその誤変換に気付かないことになります。

 もちろん、長いひらがな文を変換してからゆっくり変換結果を眺めているタイプのユーザは、こういう問題を感じなくてすみます。私みたいに、ちょっとせっかちなユーザに特有の問題なんだろうとは思いますけどね…

 聞いた話では、ワープロ検定で上位を取るようなワープロユーザは、わざとIMの学習機能をOFFにしていることも多いそうです。つまり、あるひらがな文字列に対応する変換文字列の候補順をユーザ側で完全に管理しておかなければ、効率のよい入力はできないというわけです。

 とある友人は、「道具を人間に合わせるより、人間を道具に合わせる方が早いってことだね」と笑っていましたが、確かにそうかも知れません。

 もちろん、文脈変換そのものが悪いといっているのではないのですが、現時点では文字入力を生業としているユーザにとってむしろ弊害の方が大きいかなぁと感じるのです。

 ところで、今文字列入力に使っているのは「ことえり2」なのですが、これはなかなかいい感じです。前回の記事では「論外」扱いでしたが、v2はほんとにいい仕上がり具合ですね。下手に文脈変換もしませんし。

 ただ、ことえりには、操作のカスタマイズができないという欠点があります。特に文節移動や文節延長・短縮は頻繁に行う動作だけに自分なりのキーアサインを使いたいのですが、ことえりにはそういう機能がありません。これさえ解決すれば、完全にことえりに乗り換えてもいいのになぁと思うのですが。

 ついでですが、BeOSで使っているIM、「Canna(kanBe)」についてもちょっとだけ。

 BeOSには今のところこれしかIMがないのですが、なかなかいいソフトですね。変換効率もなかなかいいし、操作性も問題なし。そして、なんといってもカスタマイズが自由自在なのがいいですね。あんまり使い良いものだから、「Canna for MacOS」が出ないかなぁなんて真剣に願ったりしています。

 ということで、IMに関する閑話その2でした。

#それにしても、私は「ATOK8」及び「EGBridge v8」の正規ユーザなんですが、両方とも未だにアップグレードの案内が来ないです。… まったくもう。


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